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【意欲作】 「関西のおいしいラーメン屋」

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昔、大学生だったころ、最寄り駅から下宿までの間に「たつや」というラーメン屋兼居酒屋があった。バイトの後に仕事上がりの一杯を飲みたかったり、友人たちとの飲み会の後、しめのラーメンを食べたかったりしたときによく一人でふらっと寄っていたのを思い出す。

 

赤いのれんをくぐって店内に入ると、入り口右手、雑誌棚の脇に立てかけられているアコースティックギターが目に付く。年季を感じるが、素人目にも手入れがしっかりされていることが分かる。15席ほどしかない狭い店だが、お酒やつまみも出すので、夜になると常連で賑わった。この店には夜だけ常連専用のメニューがあって、その中にギターというものがある。

 

「ギター 0円。」

 

酒が入った客がギターを注文すると、忙しくないときだけ大将自ら弾いてくれた。

「ラーメンに比べてギターの出来は歳がもろに出てくるから嫌だねぇ。」

大将は弾き終わると毎回恥ずかしそうにそう言っていた。僕はそんな大将が好きだった。

大将の夢

大将は昔バンドマンだったらしい。夢を追って東京に出てきたはいいものの、結局売れずに関西に戻ってきてしまった。ただ、夢を掴むことは出来なかった大将が代わりに掴んだのがラーメン屋ののれんだった。「絶望したときのラーメンより旨いもんはない。」というのが大将の口癖で、僕が悩み事があったりして落ち込んでいると、そう言ってラーメンを一杯サービスしてくれた。確かに、そういう時のラーメンが一番美味しかったと思う。スープを最後まで飲み切ると、いつの間にか悩んでいたことが馬鹿らしくなってしまい、また大将にしてやられたなと思ったものだった。

 

一度だけ大将の夢を聞いたことがある。東京の会社に就職して下宿を引き払う日の前日だった。

「俺の夢は、お客さんの目から鱗を落とすことなんだよ。」

「はぁ…」このおっさんは50過ぎて何を夢なんて語ってるんだろうと思ったけど、それは言わないでおいた。

「美味しいとき、頬が落ちる程旨いって言うだろ? でも俺はそれだけじゃ満足出来ない。じゃあ何を落とすかって話なんだが、やっぱりそれは鱗だろと思ってな。」

「目から鱗ですか。」

「そうよ。俺が昔バンドを辞めたときに食ったラーメンはまさにそうだった。食べてると目から鱗がポロポロと落ちてくるんだよ。嘘じゃないぞ。そんで、自分はまだまだやれんじゃないか。そう思った。垢が取れて視野が急に明るくなったんだ。俺はそういうラーメンを作って、客の目から鱗が落ちてるところを見てみたい。それが俺の夢だ。」

「ポロポロと、ですか。」

実際にラーメンを食べている客の目からポロポロと鱗が落ちているのを想像すると笑える。

「だから、お前も人生に絶望したときは俺の店に来い。鱗を落としてやる。」

「じゃあ、そんなことにならないよう、頑張りますよ。」

僕は最後に、年賀状出しますからと加えて店を出た。

 

大将が死んだのを知ったのはそれから5年後の夏だった。

5年間やり取りした年賀状ではどれも元気だった筈なのに。心臓発作による急死だったらしい。季節外れに届けられた葉書には、葬儀は身内で細々と行われたと書いてあった。葉書を読んで最初に浮かんだのは、大将が死んだという悲しさよりも、もう大将のラーメンを食べられないという悲しさだった。結局、大学を卒業してから一度も大将のラーメンを食べていない。そして、それはこれからもずっと。

 

僕は目から何かが落ちていくのを感じた。それが涙なのか鱗なのかは、視界がぼやけているせいでよく分からなかった。

それから僕は会社を辞めた。ラーメン屋になるためだ。もう一度大将の味を自分の手で再現しようと思った。そして夢を引き継いでやろうと思った。修行は楽ではなかった。地元の有名店で住み込みで3年。

その結果、やっと僕は自分の店をもつことが出来た。

場所は勿論あの場所。

店名は、

「ラーメン ウロコ」

何でカタカナにしてしまったんだろうと、店に取り付けられた看板を見ながら僕は思った。

 

あとがき

昨日便秘解消のルーティーンの記事を書いていた時に、目から鱗な記事が書きたいなぁ→目から鱗→目からウロコ→目からウ○コとか考えて一人で失笑して思いついた短編小説です。

勢いで書き上げて個人的には大満足の最高傑作。ご意見・ご感想お待ちしております。

 

www.tedium-life.com

 

今後も思いついた時にこのようなくだらない小説を書いていきたいと思います。

応援宜しくお願いします。

 

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