読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

徒然なるままに・・・

就職→起業→独立(いまココ)の日々を綴ります。

嘱託殺人に隠れた真実とは!? - 横山秀夫「半落ち」

読書記録

人間五十年ー。「妻を殺しました」現職警察官である梶聡一郎がアルツハイマーを患う妻を殺害し、自首してきたとの連絡が入った。W県警本部捜査第1課の今日後半指揮官である志木和正は別の事件の捜査に当たっていたが急遽梶の取り調べ担当となった。妻を殺害したことは認めたものの、自首するまでの空白の2日間を語ることはなかった。果たして空白の二日間に何があったのか、そして梶が自首する前に書いた「人間五十年」という言葉が意味するものとは?

 

今回は横山秀夫「半落ち」についてのみどころと感想について書いていきたいと思います。(ネタバレありです)

結末

梶は空白の二日間の間にある人物に会いに行っていた。その人物とは梶が骨髄を提供したドナー患者で会った。梶はまだ中学生 だった息子を急性白血病で亡くていた。ドナー提供者が見つかっていれば助かったであろう病気だったが間に合わず、亡くなってしまった。息子のような病気で 苦しんでいる人たちを助けたい、そんな思いから彼はドナー登録をし、以前彼の骨髄をある患者に移植していた。妻を自らの手で殺め、生きる希望を全て奪われ た梶であったが、最後死ぬ前に自分が提供した患者が元気でやっているかどうかを会って確かめたいと考えた。そして提供した相手が働いている歌舞伎町のラー メン屋に赴いたので会った。

言葉は交わさなかったものの、お互いどこかで繋がりを感じ、その時梶はドナー登録が抹消される50歳までは生きたい、生きて役に立ちたいという想いにかられ、自首することを決意した。生きて51歳の誕生日を迎えて自殺を図ることを考えていたのだ。

真実まではたどり着けなかったが、「梶は50歳で死ぬことを決意している」ことを感じ取り、「あの男は死なせない」と必死で動いた志木達の想いが浮かばれたのであった。

みどころ

 真実を解き明かそうとする者と警察内部の圧力の攻防

嘱託殺人を犯してしまった現職警察官である梶聡一郎を中心として、彼を取り調べる志木や検察の佐瀬など、彼に関わる人々に焦点を当てて物語が展開されていく。

警察は身内から出た犯罪の真実を隠し、警察のイメージを損なわないようにするために都合のいいように情報操作を行う。取り調べから検察への身柄引き渡し、法廷への出廷から拘留までありとあらゆる場面で梶と関わり合う者が真実を暴こうとするものの上層部の圧力によって真実を解き明かすことができぬまま次の「工程」へと梶の身柄はまるでベルトコンベアーに乗った荷物のように渡っていく。

読み進めていくうちに、正しいことを行おうと必死でもがく人たちの努力を無駄にする組織という大きな悪に苛立ちを覚えていく。志木は取調官を外され、佐瀬は検察の弱みを握られることによって、事件解明に動くことができなくなる。中尾は一大スクープ取り上げたものの情報操作によって空砲に終わる。梶を助けるものの視点で物語は進んでいくが、その度にうまくいかず、チリチリとした痛みが内臓までいたぶってくる。

梶という男の優しさ

梶は妻を絞殺した。それはまぎれもない事実である。しかし、彼の妻はアルツハイマーになっており、息子の命日に墓参りに行ったことですらその日中に忘れてしまうほど重度なものであった。「息子のことを覚えているうちに死にたいと」妻に懇願され、その魂の叫びに梶は応えてしまった。

人を助けたいという想いは人一倍強く、息子を急性白血病で亡くした後、彼はドナー登録をし、実際に一人の人間を骨髄移植で助けていた。警察の間でも評判で、優しい梶教官として知れ渡っていた。

そんな梶に関わってきた人たちは梶の優しさに触れ、今は真実を明かすことができなくとも梶を助けたいという強い想いにかられ、次に梶を担当するものへ「梶を助けて欲しいという」想いを込めたバトンを渡していく。

取調官志木の粘り強さ

取調官を外されてしまった志木だったが、バトンを渡した相手と要所要所で出会い、彼なりに独自で調査を進めていた。弁護士に「適合者がいれば助かったか」というというに梶は「確実に助かったと思います」という力強い言葉を志木は忘れていなかった。梶に生きる希望を与えようと必死で捜査した志木の粘り強さに感服する。

他の誰でもなく最初から担当していた志木がしっかりと答えを持ってくるところが臭くてよかった。。

裏話「なぜ半落ちが直木賞の受賞を逃したのか」

話の中では51歳になるまで骨髄を提供できるとあるのだが、そこに関して当時の選考委員らが審査前に「現実では受刑者の骨髄は提供できない」との回答を骨髄バンクから得ていたため、そのことが授賞に至らなかったことの要因の一つとされている。

しかしこの論争がきっかけで正式に骨髄バンクも検討することとなり、「適合者が一人しかいない場合、法務省に協力を要請する」との見解にいたり、法務省も「検察官が事案と被収容者の事情を総合的に勘案して検討する」と判断にふくみをもたせることとなった。

この「半落ち」という小説によって、骨髄移植の基準がより良いものになったということになるだろう。小説から法を動かすことができるなんて、横山先生はすごいお人だ。

詳細は下記を参照していただければと思う。

直木賞候補作『半落ち』の評判

あとがき

梶という男の優しさに、また彼に魅了されたものが必死で梶を生かすために奔走する姿を見ることができる。こちらは映画化やドラマ化もされているようだが、ぜひ原作を読んでいただければと思う。